<この原稿は、岩田代表が『ふれあい文庫だより』第65号(2022年6月)に執筆したものです>
「思えば遠くへきたもんだ」なんて言葉をどこかで聞いたことがありますが、この世に生を受けて、ちょうど70年、ふと振り返った時、そんな言葉が思い浮かびました。
「人生にもしは無い」というけれど、今の私を取り巻く環境を見つめなおしたとき、つい「あの人との出会いがなかったら、あんな出来事に出会わなかったら…」なんて思ってしまいます。
世間の風に当ることもなく、盲学校で14年過ごした私は、地元の医院に務め始めました。そこで初めて社会の洗礼を受けたと言ってもよいでしょう。人間関係が築けず、全盲という弱点を逆手に取ったいじめにも会い、1年で退職。自分自身を立て直さなければと思い単身大阪へ。それから半世紀、どれだけ多くの人との出会いと別れを経験したことか。壁にぶつかり、前に進めなくなった時、いつも誰かが知恵や力を貸してくれました。とはいうものの途方に暮れることや、嫌な思いをしたことも沢山ありました。それでもくじけず、投げ出さずに歩いてこれたのは、過去の経験が私の心を強くしてくれていたのでしょう。『もし』卒業後、社会人となってあんなつらい思いをすることがなかったら、大阪に来ることもなかったでしょうし、また別の人生を歩んでいたとは思いますが…。
最大の出会いはやはり夫でしょうか。結婚して「母になりたい」という夢をかなえてくれたのですから。やがて生まれた子どもたちからは絵本の素晴らしさを教えられ、思いのまま絵本の世界に足を踏み入れました。しかしそこに、私が歩きたい道が整備されていたわけではありません。前に進もうと思えば、そこにある障害物を取り除くしかありませんでした。一つ一つの障害物を沢山の人が一緒に取り除いてくれたおかげで、文庫活動が軌道に乗り、願って止まなかった点字つき絵本の出版が実現し…。そんな姿を見て育った息子たちは今や『立派なおじさん?』に。
19年前に世を去った夫は、8年間の闘病生活ののち、私に『自由』という大きなお土産を残して旅立っていきました。
ひょんなことから私の活動に関心を持ってくださった、今は無き寛仁親王殿下との出会いは、厳しい助言をいただきながらも随分支えてくださったことで活動に大きな発展をもたらしてくれました。
一方、足を引っ張ったり、私を通じて、私の周りにいる人たちを利用しようと近づいてきた人もいないではありません。そうした人たちとの関わりの中では、人を見る目を育ててくれましたし、辛い経験はその後の肥やしとなり、素敵な出会いは心を元気にしてくれました。
手探りで歩き続けた70年、どんな出会いも、どんな別れも決して無駄なものはなかったことを実感しています。それらはすべて私の宝物。人に揉まれ、支えられて得たものを生かしながら、また明日からも楽しく過ごしたいと思っています。