<この原稿は、岩田代表が23年前に執筆したものです>
私が書く原稿といえば、たいてい子育てに関すること、点訳絵本に関すること、あるいは視覚障害そのものについてというように、だいたい相場が決まっています。しかし欲張りな私は、もっと生活に密着した軽い読み物も書いてみたいと常々思っていました。そこで、今後はこの欄で絵本のことも含め日常のちょっとしたできごとや感じたことを書きつづっていこうと思います。内容について、ご意見、ご感想、ご質問などがありましたら、お気軽にお便りをお寄せ下さい。
まず最初は、私がずうっーと不思議に思っていることを書いてみましょう。
私は先天盲で“見える世界”を全く知りません。日常生活の中でわが子の素早い動きをみて「見えるって、なんて便利なことなんだろう!」と感激したぐらいですから…。そんな理解の仕方で“見える”とは、目を開いてさえいれば目の前のものはなんでも見えているものと思い込んでいました。ところが、外に出て活動するようになり、杖をたよりに歩き回っていると、いたるところでいろんな人とぶつかるのです。それも私が物陰から飛び出したとか、混雑していて避けようがなかったというのなら仕方がないのですが、見通しのよいそれほど狭くもない直線の道で正面から歩いてきて、どおーんとぶつかるのです。そして「アッ!びっくりした!」と言いながら通り過ぎていきます。びっくりしたのは私の方です!そのことを文庫で話すと、「みんな目標物しか見てないからねぇ」と言うのです。つまり駅であれば改札だとか、入線してくる電車、また商店街であれば、入ろうとする店の入り口のことです。だとしたら、道に段差や溝があったら、つまずいて転ぶのでしょうか?そうかと思えば、通りすがりの人のズボンやスカートのファスナーが開いているのを見つけて、そっと耳打ちしてあげたという話も聞きす。“見える”ってやっぱり不思議な世界なんですね。そんなことを考えながら、私は今日も杖を振りながら歩きます。そして、ぶつかって来る人に言ってみたい…「私が見えないのなら、あなたも杖をお持ちなさい。」と。
『ふれあい文庫だより』第1号<2002年1月発刊>転載